奪取―[Berry's版]
 ね?と首を傾げる将治に、絹江は返答に窮するばかりだった。
 絹江が身に纏っているドレスは、将治が親しくしているデザイナーのものである。ホルターネックのオープンバックスタイルのショートドレスだ。胸元も、背中も大きく開いているそれは、身体を動かすだびに軽やかな生地が踊るようにしなやかな印象を与える。膝丈のスカートも幾枚も生地が重なっており、アシンメトリーとなっている。
 ここ数年、ほとんどを着物で過ごしている絹江には、今のこの装いが酷く頼りないものに感じられ仕方ない。更には、肩も、背中も、胸元も、膝も。人前で肌を晒すのは酷く恥ずかしくも感じる。スカートの裾を押さえ、胸元を押さえ……と、絹江は落ち着きがない。
 楽しげに眺めていた将治は、苦笑を浮かべる。

「慣れないでしょうが、今日ばかりは、我慢してうちのドレスを着てよ」
「お祝いでもあるんだから……でしょう?」
「そうそう」

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