奪取―[Berry's版]
 会場には、彼女のスタッフが既に準備のために集まっている。春花から、喜多が依頼を受けた若手歌手も、本日は春花のバックコーラスとして参加していた。

 喜多は、後ろに立つ秘書に視線を向ける。長年付き合いのある彼と喜多との仲である。言葉を交わさなくとも、十分に伝わるものがあるのだろう。彼は「万全です」との言葉を喜多へ返してきた。
 秘書の言葉に、喜多が満足げに小さく頷きをした時、エレベーターが止まった。まだ、会場のある階ではない。宿泊部屋がある階である。
 本日招待した客の中には、地方や海外から足を向けてくれた人も少なくない。もちろん、主催側である喜多の会社では招待客へ宿泊場所も確保し提供していた。その中の誰かだろうかと検討を付け、喜多は開いたドアへ視線を向ける。
 しかし、現れた人物を前に、自身の目を疑わずにはいられなかった。
 何故なら。
 ドレスを身に纏った絹江が、男性と共に立っていたからだった。

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