奪取―[Berry's版]
19.信頼
頼りないほどに薄い生地の隙間から、極めの細やかな肌が覗き見えた。深みのある黒いドレスが、シミも傷もなく、雪のように白い絹江の素肌を際立たせる。降り注ぐ照明の作る陰影が、絹江の動きによって姿を変えてゆく様は、喜多にふたりしか知らない夜の情事を連想させていた。今では、喜多だけが知っているはずの絹江の背中。天使の羽と称される肩甲骨の形も、小さな凹凸を繰り返す、滑らかで、思わずなぞり上げたくなる背骨も――。
「本部長!」
自身を呼ぶ大きな声に、喜多は我に返る。目の前には、眉間に皺を寄せつつ伺うような視線を向ける秘書の顔があった。情けなさと気恥ずかしさから、喜多は思わず額に手を当てる。何度か、左右に頭を振り、写真のように焼きついている映像を、どうにか頭の隅へ追いやる努力を試みていた。
「本部長!」
自身を呼ぶ大きな声に、喜多は我に返る。目の前には、眉間に皺を寄せつつ伺うような視線を向ける秘書の顔があった。情けなさと気恥ずかしさから、喜多は思わず額に手を当てる。何度か、左右に頭を振り、写真のように焼きついている映像を、どうにか頭の隅へ追いやる努力を試みていた。