奪取―[Berry's版]
 将治の問いに、絹江は正直に首を縦に振る。絹江の答えに、将治は天井を仰ぎ、眸を掌で覆い隠した。大きなため息と共に。

「なるほどね。じゃあ、これも。あの人の仕業だ」
「え?」
「……鈍いな、絹江さん」

 絹江は将治が触れた肩へ視線を向ける。絹江から見える範囲には、変化は見られない。首を傾げ問う絹江に、将治は苦笑を浮かべ答えた。

「キスマーク。薄くなっていたけれど、あったんだよ。着物だと見えない位置だろうけれど、そのドレスだとどうしてもね。今は化粧で誤魔化してはいるよ」

 将治の言葉に、絹江の肌は見る間に赤みを帯びてゆく。確かにそこは、数日前に喜多が唇を寄せた場所であったからだ。他人に指摘される今まで、絹江は気付くことが出来なかった。羞恥から染まる頬を隠すよう手の甲を当てる絹江に、将治は言葉を続ける。

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