奪取―[Berry's版]
「で、彼はどうしてここに?」
「秘書の方も一緒だったから、仕事だと思うけれど……」
「聞いてないの?」
「知っていたらこの場に来てないわよ」
「まあ、それは確かに」
「私、彼の仕事自体詳しく知らないもの」
「気にならない?」
「うーん。この歳になると、仕事はイコールその人アイデンティティに繋がるものだと思うの。だから、ある程度は知りたいと思うわよ。でも、同業者ではない限り、彼の仕事の全てを把握することは不可能なわけだから、詳しく知る必要もないように思う部分もあるの。目の前にある彼で……私生活を通して見える彼だけで、私は彼を十分に理解できるわけだから」
「……女性も一緒だったのに。気にならない?」

 絹江は記憶を辿り、先ほどのことを思い出す。
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