奪取―[Berry's版]
「普通さ、あの状況を目の当たりにすれば疑うと思うよ。でも、絹江さんはそうじゃないわけだ」
「……うん」
「恋愛関係って、惚れた腫れたの甘い感情だけじゃ成立しても続かない。相手を信じなきゃ共に歩んではいけない。それを、絹江さんはここで分かってるんだよ」

 瞬きを繰り返し、絹江は将治の言葉を反芻していた。指摘を受け思い浮かぶ出来事。喜多と再会したばかりの頃、喜多から香った彼らしくない人工的な匂いに、絹江は心を掻き乱された。喜多がそれは嫉妬だと喜ぶほどに。
 だが、今はどうだろう。波立つ思いも、疑う気持ちも僅かなりともなかった。
 この数ヶ月と言う短い期間ではあるが、喜多が、自分をどれ程大事にし、心を寄せてくれているかを知っているからだ。それは言葉だけではない。態度だけでもない。僅かな機微からも、喜多は絹江にそれを伝える努力を怠らなかった。

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