奪取―[Berry's版]
「ここ。――そゆことでしょう」

 将治が、自身の胸を親指で指す。絹江も、思わずグラスを手にしていない掌を胸に乗せていた。

 瞬間、会場のライトが落とされ、司会者と思われる端正な声が、マイクを通し響き渡る。スポットライトが当たる中央に設置された雛壇。自ずと、騒がしいほどに囀っていた口を皆が閉じ、そちらへ視線を集中させていた。絹江と将治も、それにもれず眩しい雛壇を注視する。

「それでは。この度、ホテルのリニューアルに関する責任者であります。鰐淵喜多よりセレモニー開始の言葉を述べさせていただきたいと思います」

< 229 / 253 >

この作品をシェア

pagetop