奪取―[Berry's版]
 人々の僅かな隙間からであるが。スポットライトを浴びたように、一際目立つ華やかな後姿を。喜多が見間違える訳もない。忌まわしくも、向かい合う男性に笑みを向けている横顔を認め、喜多は唇を噛み締めた。絹江の近くへ歩み寄ろうと足を踏み出した瞬間。会場全体の照明が落る。全てが闇へと包まれた。
 何と言うタイミングなのか。小さく舌を鳴らした喜多はその場に留まり、目が慣れるのを待った。

 会場とは裏腹に、ステージ上には眩いほどの光が集められていた。中心には、先ほどまで春花のバックヴォーカルと務めていた青年の姿がある。スタンドマイクの位置を調節し、バックのバンドメンバーへ視線を一度送ってから。彼は語り始める。
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