奪取―[Berry's版]
 喜多がこの場を提案したにせよ、乗るからにはバンドメンバーや事務所の人間へも手を回しているだろうと容易に想像できた。観客から向けられる、期待の眼差し。雰囲気に呑まれているだけではなく、青年のプロポーズに胸を高鳴らせている自分も、確かに春花の中にはあった。退路は完全に絶たれている。肩を竦め、春花は仕方なくも覚悟を決める。
 青年に握られた両手を、春花も握り返した。小さく、何度も頷いて。
 勢いよく、青年が春花を抱きしめた。両手で抱えながら、くるりと回り溢れるほどの喜びを表現していた。同時に、観客の拍手と歓声が会場全体を包む。
 青年にされるがままに、春花は問う。

「……ここ最近の怪しい行動はこれだった訳ね」
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