奪取―[Berry's版]
 会場内にセレモニーの幕を下ろす司会者の言葉がマイクを通し響いた。絶妙なタイミングだった。招待客の注目がステージへ向けられている隙を好機と判断し、喜多は絹江を抱えたままにその場を足早に後にしたのだった。

 ※※※※※※

「待って、喜多くん」
「待てない」

 唇が腫れたかのように熱を持ち始めた頃。漸く喜多の舌が絹江の口腔内から姿を消した。その瞬間を見逃すことなく、絹江は懇願の言葉を零す。だが、それは聞き入れられることもない。むしろ、考えた様子もなく、瞬時に却下された。
 喜多の唇が離れ、首筋へと下ってゆく。苛立たしげに、喜多は絹江の首に巻かれた生地を左右に力いっぱいに引き裂いた。背後から回した両手で、肩を滑らせるように。服とは呼べなくなった生地を落としてしまう。
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