奪取―[Berry's版]
 絹江の言葉を遮るよう、喜多は言葉を被せる。素肌を晒し続けている絹江の肩に、喜多は床へ放り投げたままになっている自身のジャケットを拾い再び羽織らせた。
 絹江から離れ、喜多は壁に背を預け座り込む。膝を崩し、腰を落ち着け、天井を見上げた。片手を額に当てながら。喜多のジャケットを両手でかき合わせ、絹江も喜多に倣う。立てた喜多の膝に、絹江は両手を乗せ顔を寄せる。
 そんな絹江と視線を合わせることなく。大きく息を吐き出してから、喜多は口を開いた。

「先日の見合いよりもずっとまえに。俺は絹江と会ったことがあるんだ」
「え?うそ……私、全然覚えてない」
「覚えていなくて当然さ。絹江は気付いてなかったから。」

 上げていた視線を戻し、喜多の眸は絹江を捉えた。その眸の中に、絹江は今まで見たことのない翳りを感じる。と同時に、何故か絹江の身体が小さく震えた。

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