奪取―[Berry's版]
「その頃は……絹江が幸せで居てくれるなら、隣にいる男が俺じゃなくてもいいと思っていた。いや、違うな。そう思おうと自分に言い聞かせていたんだ。結局は、手放したくないものが増えた自分へのいい訳だよ。あの頃の俺は、自分を守るだけで精一杯だった。例え、絹江の隣に立てたとしても、ずっと君を守るだけの自信がなかった」

 膝に置かれた絹江の手に、喜多の手が重なる。細く、白い絹江の指に、自分の指を絡ませ。喜多は頼りない程の力で、絹江の手を握った。

「俺は……我侭で、卑怯な男なんだよ。結局は、君を諦めることなんて出来なかった。影から絹江の幸せを願って見守っているなんて無理だった。自分の思う道を進むためにと、権力を手に入れることを……結局、俺は選んだ」
「喜多くん……」

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