奪取―[Berry's版]
 喜多の本音と弱みが感じられる言葉。胸の内を曝け出した言葉に、絹江は身体だけではなく心も震えていた。
 絹江は、喜多の眸に唇を寄せる。瞼、頬、そして最後は唇へ。何度か下唇を挟み、歯を優しく立ててから離れる。眸を逸らせることなく、じっと見つめたままに。絹江は口を開いた。

「喜多くん。私ね、喜多くんと会うまで、ひとりで生きていこうって決めていたの。結婚も、子供も。夢見ることすら諦めていた。誰に頼ることのない生涯を送ろうって」
「それは、セックスに対するコンプレックスから?」
「そう……だね。悩み続けることに疲れてしまったのもある。諦めたほうがずっと楽だったから。覚悟を決めてしまえば、歩む道は自ずと見えてきたわ。だから、がむしゃらに仕事へ打ち込んだ。それが自分の生きる道だと信じて……だから。喜多くんから手を差し伸べられた時も、どうしても踏み出せなかったの。ふたりで歩む未来なんて、想像したこともなかったから。あまりにも、甘くて眩しく感じられて。怖かったの」

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