奪取―[Berry's版]
 絹江は、再び喜多の手を取った。それでは物足りないと、指を絡ませる。

「喜多くん。私もズルイ女だよ。中途半端な状態があまりにも心地よくて、喜多くんに甘えてきた。踏み出すことも、逃げ出すことも選べなくて。この歳になって、誰かに抱きしめてもらえる、喜多くんの胸の温かさをしってしまってからは余計に臆病になっていた……」
「それは、俺が一方的に気持ちを押し付けたから」

 喜多の言葉に、絹江は首を左右に振った。それは違うと。

「年齢とか、今までの経験とか。理由を沢山並べて、私が逃げていただけよ。踏み出せば後戻りできないことが分かっていたから。今でも、正直怖い気持ちはあるの。でもね、喜多くん」

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