奪取―[Berry's版]
 絹江の背中へ回されていた喜多の掌が、怪しく動き始める。絹江は、現在素肌に喜多のジャケットを羽織っているのみだ。裾をたくし上げ、直接喜多の手が触れた。
 慌てて、絹江は喜多の胸から顔を上げる。先ほどの、どこか弱く翳りを帯びていた眸はどこへ行ってしまったのかと問いただしたくなるほど。怪しく艶を帯びた眸が、絹江を待ち受けていた。下から掬い上げるように、絹江は喜多を睨む。口角を挙げ、楽しげに喜多は言い放った。

「きぬちゃん。俺だけの、俺のための背中を他人に見せた反省はしてもらおうか」
「……私の背中は私のものです」
「うん。そこらへんもはっきりさせようね」

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