奪取―[Berry's版]
絹江の言葉に、喜多も眸を細めていた。
注文した品がテーブルを彩り、ふたりは手を伸ばす。
着物を召している絹江を気遣ったのか。ふたりが訪れていたのは、絹江の職場に程近くある、名の知れたホテル内のレストランだった。だが、最上階にあるような気の張る場所ではないことが、喜多らしい心遣いだとも。絹江は感じていた。
「今日はごめんなさい。返事が出来なくて」
「絹江さんの場合。昔から、ひとつに熱中してしまうと周りが見えなくなることは承知しているから。大丈夫。気にしていないさ」
「……随分と意地悪な言い方なのね。この間も思ったけれど、その『絹江さん』って言い方も」
「昔みたいに『きぬちゃん』って呼んだほうがいい?」
注文した品がテーブルを彩り、ふたりは手を伸ばす。
着物を召している絹江を気遣ったのか。ふたりが訪れていたのは、絹江の職場に程近くある、名の知れたホテル内のレストランだった。だが、最上階にあるような気の張る場所ではないことが、喜多らしい心遣いだとも。絹江は感じていた。
「今日はごめんなさい。返事が出来なくて」
「絹江さんの場合。昔から、ひとつに熱中してしまうと周りが見えなくなることは承知しているから。大丈夫。気にしていないさ」
「……随分と意地悪な言い方なのね。この間も思ったけれど、その『絹江さん』って言い方も」
「昔みたいに『きぬちゃん』って呼んだほうがいい?」