奪取―[Berry's版]
4.吐露
 気だるさを感じながら、絹江はゆっくりと眸を開いた。おぼろげながらも捉え始めたのは、見慣れぬ天井、壁――景色だ。明らかに感じる、周囲への違和感。
 瞬時に。今居る場所が、馴染みある自身の寝室ではないことに絹江は気付く。驚きのあまりに、眸を見開いて。飛び起きた絹江を激しい頭痛が襲った。反射的に、頭を抱え再び布団の海へと倒れこむ。
 今まで、タイミングを計っていたのだろう。唸る絹江の耳に、控えめなノックの音が飛び込んできた。刺激を与えぬよう、緩慢な動作で。絹江は注意をそちらへ向ける。
 薄いピンクのシャツと、ストライプが入ったグレーのスラックス。既に身なりを整えた喜多が、大きな柱の横に立っていた。絹江の眸が、自身の姿を捉えたことを確認してから。喜多はベッド脇まで足を進める。絹江が蹲る傍らに腰を下ろし、顔を覗き込んだ。

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