奪取―[Berry's版]
「ああ……出勤には余裕のある時間だけれど。ここって……喜多くんの家ってどこらへんかな?教室があるのに、同じ着物を二日続けて着ては行けないから。今日着る着物を取りに自宅へ戻りたいけれど、その余裕があるのかなって……どう?」
「それなら。昨日贈った着物と帯をおろせばいい。これ幸いと、俺の家に置き忘れられても困るし、丁度良いじゃないか」
「それは……」
「昨日着ていた長襦袢、淡いクリーム色だったね。市松の着物にもぴったりだ。帯揚げは確か、2色使いのものだっただろう?帯締めは……大目に見てもらおう」

 どこから運んできたのか。ベッドの上に、喜多が見覚えのあるたとう紙を広げた。現れた品物を前に、絹江は他に方法はないと、仕方なく首を縦に振ったのだった。同意を示した絹江に、喜多は眸を細める。非常に、満足げに。
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