奪取―[Berry's版]
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「先生、そのお着物と帯、素敵ですね」

 生徒の一人に、褒め言葉を貰い。絹江は笑みを返す。喜多から贈られた着物は、絹江にぴったりだった。着物を着るようになってから、体型にも体重にも十分に気を遣ってはいるが。喜多の両親が、未だに絹江の寸法を覚えていてくれたことに、感動を感じずにはいられなかった。喜多の父親の作品ではないが、仕立てたのは喜多の母親だろうと絹江は予想していた。喜多の母親は和裁士であったから。

 本日の授業が始まり、各々の生徒が帯を締める姿を眺めながら。絹江は昨夜の出来事を反芻していた。ひとつひとつ、噛み締めるように。
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