奪取―[Berry's版]
 ホテルのレストランで食事をし、今身に着けている着物と帯を、喜多から贈られたことは覚えている。その後、ゆっくりと酒の楽しめる近場のバーへ移動したことも、しっかりと覚えていた。雰囲気のあるバーで、ちょっとしたおつまみも喜多が勧める酒も美味しかった。
 バーまでの記憶を辿ったところで、絹江は不意に思い出した。喜多とどんな会話を交わしたのか、を。零れそうになった悲鳴を、慌てて飲み込む。
 今朝のことなど比ではないほどに。頬だけではなく、耳から首までも熱を持ち始めているのが。絹江自身にもよくわかった。酒に飲まれ、気を良くした絹江は。吐露したのだ。何故自分が結婚したくないのか、男性に興味がないわけではないにも関わらず、何故セックスが好きになれないのか。それはそれは赤裸々に。喜多へ話して聞かせたのだ。
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