奪取―[Berry's版]
 なんてことをしてしまったのだろう、と。頬を両手で覆い、絹江は地団駄を踏みそうになる。ここが職場でなければ、羞恥をどうにかしようと声を上げていたかもしれないほどだ。
 余程気分が良かったのか。自分が語ったであろう言葉は思い出せるのだが、喜多がどんな言葉を返してきたのか。記憶を掘り起こす努力を試みても、全く思い出せない。

「先生、風邪ですか?顔が赤いですけれど」
「っ、大丈夫です。気にしないで!大丈夫」

 帯締めへ熱中していたはずの生徒のひとりに指摘され、絹江は怪しまれるほど必死に、言い訳を並べていたのだった。
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