奪取―[Berry's版]
 後々。大学生活も半ばを過ぎ、周囲が就職活動に必死になり始めた頃。絹江は、友人等の口から喜多の実家が経営する会社の名前をよく、耳にするようになっていた。喜多本人に確認することはなかったが。彼が『ある程度』と表現したのは、謙遜に過ぎなかったでこと。それどころか、かなりの名の通った規模の誇る会社なのだということを知ったのだった。
 恐らく、お見合いの際に受け取った釣書を確認すれば、喜多が現在どのような役職についているのか。絹江には直ぐにわかることだろう。だが、絹江はそれをしなかった。興味が全くなかったと言えば嘘になる。が、もし知ってしまえば。前のように、友人として喜多と接してゆくことが難しくなるのではないかと思ったからだ。
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