奪取―[Berry's版]
「……もしかして」
「そう、ネクタイ」

 喜多の眸から逃げ、消えそうなほどに小さな声で。絹江は最後のおまけのようにその言葉を口にする。視界の隅で、喜多が包装紙を解き、箱からネクタイを取り出す様を捉えていた。喜多は喜ぶだろうか、気に入るだろうか。後の彼の反応を待つ間、絹江の心臓は期待と不安から、忙しなく鳴り響いていた。
 濃いピンク色に、斜めのストライプとシルバーのドットが入ったネクタイを手にした瞬間。

 喜多が大声を上げ笑い始めた。お腹を抱えるように、膝に顔を埋めて。ネクタイは握られたままに。予想外の目の前の光景に、絹江は瞬きを繰り返す。自分の行動を振り返るも、何が喜多の笑いのツボに嵌ったのか。まったく想像も理解も出来なかった。
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