奪取―[Berry's版]
宙に浮かぶ慣れない感覚に、絹江は思わず喜多の首にしがみ付く。一度、絹江を抱きなおしてから、喜多が歩み始めた。何度か、絹江は喜多の名前を口にするが。喜多の足は止まらない。
 短い距離の移動が止まり、安堵したのも束の間。絹江は柔らかい場所へ下ろされた。上から圧し掛かるのは、他でもない喜多だ。
 動揺しながらも、絹江は下ろされた場所がベッドの上であることを理解する。俄かに危機感を感じる始めたが、抵抗を示す余裕もなく。絹江の両手は、喜多によって拘束されてしまった。顔の横で、柔らかい羽毛に沈んでしまうほどに強く。
 そして、絹江の目の前には。今までにないほどの至近距離に、喜多の顔があった。妖艶な笑みを浮かべる喜多の顔が。

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