病原侵食
高校の頃から憧れていた、このデザイン会社に就職してもう3年。


版下製作の所属になって、もう2年半。


今ではそれなりに仕事も覚えて、戦力とみなされるだけの技術は磨いたつもり。


時折異動の話も出るけれど、私は絶対に首を縦には振らない。


……だってこの部屋にはあなたがいるから。


従業員が80人近くいるこの会社で、あなたに出逢えたのは奇蹟としか言いようがないの。




「結城。これ、急ぎの仕事が入った。塾の数学テストな」

「また急ぎですか?納期は分かってるんだから、営業との打ち合わせはちゃんとやらせて下さいよー」


口答えをするふりをして、あなたを見る。




ごめん、と言いながら爽やかに笑う、あなたが好き。


たとえ、左手の薬指に鈍く光る指輪が填められていても。




どうして、もっと早くにあなたに出逢えなかったのだろう?


そうすれば、あなたの横にいるのは私だったかも知れないのに。




佐藤奏(さとう かなで)。


それがあなたの名前。



結城阿里沙(ゆうき ありさ)。


それが私の名前。




ねぇ、私の名前をあなたは知っている?





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