病原侵食
ボランティアでも残業は毎日こなした。


だってあなたが、一番最後に会社を出るのを知っているから。


忙しいふりをして会社に残っていれば、いつかはチャンスが来るかも知れない。


せめて食事だけでも。

仕事帰りのバーにでも。


そんな淡い期待を抱いて、私は今日も無駄に詰め込んだ仕事に追われて残業する。


「結城。毎日君はよく頑張ってくれてるよな」


仕事に意識を集中し過ぎていて気づかなかった。


あなたが私の背後に立っていることを。


「あ…。この仕事は短時間で仕上げてほしいと営業が言ってきたから……」

「まだ、終わらない?」

「いえ。あと一枚出力すれば終わりです」

「そ…か。じゃあ待ってるよ。セキュリティかけなきゃいけないから」


……夢にまでみたラッキーハプニング。このまま、どこかに誘う口実はないだろうか……?



「……いつも残業してくれてるから。結城に飯奢るよ」

「……ありがとうございます」


嬉しさに思わず顔が綻んだ。


あなたと、二人きりの時間を過ごせるなんて。


妻子ある身だから深い仲は望めないけど、私はそれでも嬉しかった。


急ぎ仕事を終わらせて、二人で退社した時にはもう星が瞬いていた。



「結城は、電車で通勤してるんだっけ?」

「はい」

「それなら帰りは送っていくから。俺の車に乗って?」



乗るように促されたのは、彼の隣。助手席のドアを開けて、彼が私を見つめている。


夢じゃ、ない?


あんなに憧れた彼の横に座れるなんて。

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