病原侵食
「……うちの夫婦は、もう終わってるんじゃないかな……?」

「……どうして?」

「冷めきってるからな。アイツは、多分俺の顔も見たくないと思ってるよ」

「……そんな」

「本当。家に帰っても居場所がないんだ。俺達には子供もいないし。だから毎晩遅くまで会社に残ってる」

「係長、そんな事してたら体を壊してしまいますよ?」

「うちの嫁はそうなっても無関心だろうね」



何故。


あなたの妻という身を、私がどれほど羨ましく思っているのか、奥さんはきっと知らない。



悪魔が、囁く。



「……係長は、そんなに辛い結婚生活で我慢出来るんですか?」

「……もう結婚してしまったから。今更どうにも出来ないと諦めてるよ」


私……。私なら……。


「私だったら、係長にそんな思いはさせないのに」


悔しさを滲ませて、あなたを見た。


あなたは、目を逸らさなかった。




それは、きっと脱線へのカウントダウン。


走り出した歯車は、お互いに、もう止められなかった。


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