吸血鬼は淫らな舞台を見る
やけに月が輝いて見える夜だった。
宮路晋吾は頭から爪先まで黒で統一した服装の気味の悪い奴に後をつけられていた。
電車でAK地区に降りたときからだ。
午後11時を過ぎているのにマンガ、アニメ、ゲームなど若者特有の文化を開拓する街には熱心に商品を値踏みする客がまばらに存在した。
繁華街から抜けると、さすがに人けがなくなり、そのときからコツコツという足音が耳を離れない。
わざと革靴の踵を鳴らして恐怖心をあおっているようにさえ感じる。