吸血鬼は淫らな舞台を見る


「おまえ……」

 宮路は絶句。


 黒ずくめはゆっくりと距離を詰めてきた。

 歩き方にはいたぶるような余裕が感じられた。


「近寄るな!」

 大声で強烈に拒んで恐怖心を振り払おうとしても、宮路の体の震えはとまらない。

 それでもバッグを守るように力強く抱いた。


 黒ずくめはそんな宮路の姿を見て、惨くて思いやりのない笑い声を歯の隙間からもらした。 
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