ブルーローズの恋人
男は優雅な手つきでグラスワインを傾け、口を付ける。
たったそれだけの仕草すら妙な色香を漂わせていて、真那の鼓動は落ち着きを無くしてしまう。
緊張で冷たくなった手を握り締め、渇きを覚える喉をコクリと動かす。
「――何をすれば、良いですか」
数分前まで早く終わって欲しいと考えていた筈なのに、口をついて出た言葉は真逆のものだった。
この男との関係は終わらせてしまった方が良い、そう頭の中では分かっているのに男の言う「価値」を知りたいという欲求が勝った。
真那の言葉に、深い色合いの男の双眸に愉しげな光が浮かぶ。
それは新しい玩具を見付けた子供のような無邪気さすら感じさせた。
「その身体を差し出せば、幾らでも」
艶かしいテノールの低音が鼓膜を撫でる。
官能的な男の気配に捕らわれたまま、もう後戻りは出来なかった。