あたしのトナリ。
1.
「最後に皆さんに報告があります。俺、婚約しました」
一瞬の沈黙の後、スタッフたちの「おめでとう!」の声が店内に響き渡る。ほとんどが女性だからか、ちょっとだけ耳がキーンと鳴った。
同じフロアの他の店舗の人たちが何事かと覗きに来たけど、ここのスタッフたちはそんなこと気にしやしない。あたしはそのスタッフたちの端っこのほうで、複雑な気持ちを隠しながら小さく「おめでとうございます」と呟いた。
あたしこと、桜井麻衣の片思いが見事に終わりを告げた瞬間だ。まさかこんな、開店前の朝礼でだなんて夢にも思わなかったけど。
「みんな、ありがとう」
「で、店長! お相手は誰ですか?」
「あの噂の社長令嬢ですか!? だったらすごーい、宮地さん逆玉じゃん!」
きゃいきゃいと店長に群がって相手のことを聞き出そうとする先輩たちを見て、内心羨ましくもあった。
店長がお付き合いしてる人のことは前から知ってたけどもし知らなかったら。もし、店長に憧れたりなんてしてなかったら、今頃あたしもあの先輩たちの輪の中に入って根掘り葉掘り聞くことが出来たのかな、なんて思ってみたり。
「ほら、麻衣も店長に何か言ってやりなよ!」
一人スタッフの輪を外れてぽつんと立つあたしに気づいた先輩の慧子さんがあたしの手を引いて店長の前に立たされた。
奥二重の、優しい店長の眼差しがあたしに向けられる。アルバイトスタッフとして入社してからずっとあたしに注がれてきたもの。これを機に、あたしは店長から卒業だ。
「婚約おめでとうございます、宮地さん」
「ありがとう、桜井さん」
胸の奥のつきんとした痛みが顔に出ないよう、あたしは必死で自分に出来る最高の笑顔を作った。それを見ている他のスタッフたちが「今夜は麻衣の失恋会だね」と小声で言っているのを気づかないフリもして。
一瞬の沈黙の後、スタッフたちの「おめでとう!」の声が店内に響き渡る。ほとんどが女性だからか、ちょっとだけ耳がキーンと鳴った。
同じフロアの他の店舗の人たちが何事かと覗きに来たけど、ここのスタッフたちはそんなこと気にしやしない。あたしはそのスタッフたちの端っこのほうで、複雑な気持ちを隠しながら小さく「おめでとうございます」と呟いた。
あたしこと、桜井麻衣の片思いが見事に終わりを告げた瞬間だ。まさかこんな、開店前の朝礼でだなんて夢にも思わなかったけど。
「みんな、ありがとう」
「で、店長! お相手は誰ですか?」
「あの噂の社長令嬢ですか!? だったらすごーい、宮地さん逆玉じゃん!」
きゃいきゃいと店長に群がって相手のことを聞き出そうとする先輩たちを見て、内心羨ましくもあった。
店長がお付き合いしてる人のことは前から知ってたけどもし知らなかったら。もし、店長に憧れたりなんてしてなかったら、今頃あたしもあの先輩たちの輪の中に入って根掘り葉掘り聞くことが出来たのかな、なんて思ってみたり。
「ほら、麻衣も店長に何か言ってやりなよ!」
一人スタッフの輪を外れてぽつんと立つあたしに気づいた先輩の慧子さんがあたしの手を引いて店長の前に立たされた。
奥二重の、優しい店長の眼差しがあたしに向けられる。アルバイトスタッフとして入社してからずっとあたしに注がれてきたもの。これを機に、あたしは店長から卒業だ。
「婚約おめでとうございます、宮地さん」
「ありがとう、桜井さん」
胸の奥のつきんとした痛みが顔に出ないよう、あたしは必死で自分に出来る最高の笑顔を作った。それを見ている他のスタッフたちが「今夜は麻衣の失恋会だね」と小声で言っているのを気づかないフリもして。