あたしのトナリ。
 そこからの話は早かった。店長の婚約発表は誰が伝えたのか、お昼前に出勤してくる遅番スタッフにもすでに知れ渡っていて、3時ごろ本社から来た事業部の豊崎さんも当たり前というように知っていた。
 そして誰が言い出したのか、あたしたち早番組の上り前には店長の婚約をお祝いする会が開かれることが決定していた。
「麻衣、8時にいつものお店ね。店長の婚約祝い、やるわよ!」
 と、慧子さん。
「ええっ!? 今日やるんですか!? そんな急に……」
「善は急げ、って言うでしょ。それに明日はここの休館日なんだから、今日やらないでいつやるの?」
 今でしょ! とバックの倉庫のほうから商品管理の武田さんの声が聞こえた。今日も今もあんまり変わらない気がするけど。でも武田さんに突っこむことなく、あたしと慧子さんの話は続く。
「ってことでうちのスタッフは全員強制参加。それとも何? あんた彼氏でも出来たの?」
「か、彼氏っ!? そ、そんなあ、ああああたしかか彼氏なんて」
「可愛いなあもう! そんなのみーんな知ってるわよ、麻衣に彼氏がいたことないことも、店長一筋ってことも」
 多分今のあたしの顔は真っ赤になってしまってると思う。ついでにどもってしまってるし。
 そんなあたしをよそに慧子さんはそれに、と真面目な表情で続けた。
「だから今回は麻衣の失恋を慰める会も兼ねてるの。好きな人の婚約なんて辛いと思うけど、今日くらい騒いで忘れちゃいなさい」
 すれ違い様にぽん、と肩に手を置かれて、慧子さんの優しさにあたしは泣き出してしまいそうになった。
< 3 / 9 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop