あの頃…
「わかりました」

じゃあ、それまでにカルテを読んでおいて

とすでに落ち着きを見せたしるふを

ああ、やっぱり黒崎のお気に入りだなあと頼もしく思いながら荒井と目配せをした



「ERの方は大丈夫なんですか」

塔矢と荒井がそれぞれの課に戻った後

机に寄りかかりながらホワイトボードに向き合う海斗と

椅子に座ってカルテを読むしるふの二人だけが残った

久々の二人だけの空間

流れる沈黙は、今ではもう気にならなくなった

「時々あることだしな。そこまで火の車ではないだろう」

言いながらホワイトボードに刻まれる文字は相変わらず読み易い

「黒崎先生」

呼びかければ、静かな瞳が向けられる

その瞳が向けられる、それだけで不思議と安心感を覚えるのだ

「手術って、」

言い出しておきながら自分は何が聞きたいのかよくわからない

見下ろすカルテに踊る文字を見つめながら言葉を探していると

「怖いか」

静かに説いてくる低い声
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