あの頃…
自然とこっくりとうなずく

「ERでの処置と何ら変わらないのはわかってるんです」

でも

あの時は神宮寺やほかの医者が周りにいて助けてくれるし、フォローしてくれる

「今回は黒崎先生と私だけで。迷惑かけないか」

というか、自分のせいで手術が滞ったりしないか

それが不安でならない

少し流れる沈黙を終わらせたのは、海斗の静かな声

「術中の患者の管理は荒井に任せておけば何の心配もいらない。術前の内科的フォローも塔矢がやってくれる」

あの二人の腕は海斗のお墨付きだ

「手術の段取りは何度も確認するし、トレーニングもする。不安なら体が覚えるほど回数を重ねればいいだけだ」

それに

「忘れたのか」

お前は俺が育てた研修医だ

その言葉に視線を上げれば、透き通った漆黒の瞳が静かに見つめてくる

処置室で何度も向けられた瞳

何時だってその瞳は落ち着いていて、不思議と自分も落ち着けたのを覚えている

ああ、だから

「…はい」

大丈夫なのだ
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