あの頃…
三橋彩良は19歳というには落ち着きすぎている、そんな印象を与える少女だった

「ここが今日から彩良ちゃんが泊まる部屋」

ガラガラとドアを開けるとこじんまりとした一人用の部屋が広がる

11時過ぎ、両親に付き添われて黒崎病院を訪れた彩良を内科まで案内する

といっても元黒崎病院の患者だけあって説明する必要はないらしい

「懐かしいなー」

寄りかかって窓の外を眺めれば、二年前と変わらない風景

「前もこの部屋だったの?」

「うん。ここからだとね中庭が見えるの。だから今回もここが良いって無理言っちゃった」

見せる笑顔はまだあどけなさが残っている

「でも黒崎先生も塔矢先生も何にも変わってないんだもん」

驚いちゃった

「もう二年も前のことになるのになー」

眺める背は、どことなく寂しそうで

どう声をかけていいのかためらわれる

「黒崎先生に謝らなくっちゃ」

振り返る笑顔はやっぱり寂しそうだ

「2年前にここを出る時、言われたの。もう戻ってくるなって」
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