あの頃…
「それはそうと三橋」

海斗の声音に自然としるふが彩良のベットに寄りかけていた上半身を起こす

「手術、来週に決まった」

海斗の言葉に、一瞬の沈黙の後、彩良がそっと目を伏せる

「そっか」

流れる沈黙を誰も破ろうとはしない

今、彩良が何を思っているのか

手術をする側だって怖いなら、それを受ける側だってそれ以上に怖いはずだ

でもだからこそ2年前と同じこの部屋を選んだのかもしれない

2年前と同じ黒崎病院で

同じ先生に囲まれながら

もう一度、もう帰ってくるなと言われるために

今度こそそれを現実にするために

「じゃあさ、黒崎先生」

これは約束してよ

そう言って見上げてくる瞳は、静かでとても強い

「今度こそ戻ってこないようにしてくれるって」

もちろん

そう言う代わりにしっかりと頷いてみせた
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