あの頃…
「なんだ、立花」

早いな

黒崎病院の端の薄暗い空間

階段を下りるとぼんやりと白衣が浮かび上がっている

それが彼女だと気がついたのは、誰よりも小柄で、一つにまとめられた髪が印象的だからだ

「彩良ちゃん頑張ってるんですもん。私が足踏みしてるわけにいかないじゃないですか」

怖い、なんて言っていられない

彼女が誰よりも不安で怖くて、逃げ出したいのだろうから

自分はしっかりと立っていなければ

「それに黒崎先生約束しちゃうんですもん。益々頑張らないといけないじゃないですか」

何が起こるかわからない手術で絶対はないというのに

「三橋が、毎日立花が来てくれるから退屈しない、そう言ってた」

やっぱり年が近いと話は弾むものだ

「私の優先業務ですからね」

そう言って見せる笑顔はいつの間にか強さを兼ね備えた

「手術室には荒井もオペ看もいる、塔矢も立ち会うと言っていた」

何かあっても手を差し伸べてくれる人はたくさんいる

メンバーが違うだけでERと何も変わらない

「だからいつも通り力を抜いていけ」

「はい」

向かい側には、海斗もいるのだから
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