あの頃…
「手術は、成功」

というより、大成功

「これでもうここには戻ってくる必要はなさそうだな」

そう言ったのは塔矢だ

頷きながら視線を移せば、まだ麻酔から覚めない彩良が眠っている

規則的な呼吸を刻みながら

「良かったな。約束を守れて」

「ああ」

4時間にも及んだ手術は無事終わり、後は彩良が目を覚ますのを待つだけ

手術の緊張から解放されたけだるい解放感は久々だ

「塔矢、後頼む」

そう言って背を向ける海斗に

「仮眠室か」

と問う

「いや、うちのじゃじゃ馬を捕まえに行かないと」

手術の後から姿が見えない彼女を

「ああ」

納得したように頷く塔矢に今度こそ背を向け向かうのは二人の暗黙の了解と化したあの場所

内科の研修に移ってしまった彼女がそこに来ることは

最近ではめっきり減ってしまったけれど


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