あの頃…
「…はあ」

これはため息、ではない

大きな緊張から解放されたときの安堵から来る深呼吸

屋上を抜ける風は、穏やかで

目をつむればそのまま寝てしまえるんじゃないかと思えるほど

倦怠感が満ちている

終った、無事に

そのはずなのにまだその感覚がなくて

そっと握る手は、まだ緊張に満ちているような気がした

「立花」

ドアが開く音の後の、低い声

ゆっくりと振り返れば、薄暗闇に浮かぶ海斗の姿

しるふの腰かけているベンチに自身も腰を下ろす

手をのばせば簡単に届く距離

「黒崎先生」

彩良ちゃん

「塔矢がついてる」

だから大丈夫

その言葉に、無意識にほっと肩を落とす

見上げれば真っ黒な空に点々と星が輝いている

静かに吹く夜風は、ひんやりと頬を撫でていく

< 114 / 223 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop