あの頃…
「待ってる」

だから、心置きなく行って来い

沈黙を、夜風を遮ったのは落ち着いた海斗の声

はたと視線を上げれば、闇夜にもわかる優しい瞳

「約束、してくれますか」

「ああ」

しっかりとためらいなく返された言葉にもう一度目を伏せる

「絶対ですよ。絶対にここで医者しててくださいね」

「わかってる」

しょうがない、そう言う様に小さく笑う

「私、黒崎先生に遠く及ばなくてもちゃんと成長して帰ってきますから。だから、そしたらまたしごいてください」

そしていつか必ず隣に並んでみせる

海斗が特別だと言われなくなるように

寄りかかるだけじゃない、支えられるようになりたいから

そしたらこの埋められない距離を埋めることができるだろうか

人が入れるほど遠くない、でも気軽に触れられるほど近くはないこの距離を

手を伸ばしたら海斗はその手を掴んで引き寄せてくれるだろうか

仕方がない、そんな瞳をしながらも優しく

そして隣に居ることを許してくれるだろうか
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