あの頃…
講演は1時間と30分ほど

丁度いい感じに空腹感を覚えてきたころ、講演が終わる

ばらばらと立ち始める人を少しやり過ごそうとオフにしていた携帯の電源を入れる

携帯が立ちあがるまでの間視線が流れるのは、前方の方

海斗もまだ席に腰かけていて、立ち上がる気配はない

ああ、好きだな

素直にそう思った自分に少し驚きながら視線は外せない

同時にもどかしさと悔しさを覚えた

何時の間にかこんなに落とされていたのに

それを知りながら

まだあの隣に並べるほどではない

海斗の想いを確かめるほど自分はその資格を持っていない

でも、この瞬間を

たまたま訪れた講演の会場に彼が居たことを

記帳欄で彼の名を見つけたことを

会場の中からその背を見つけたことを

それだけにとどまりたくはない

人の波が切れて、海斗が席を立つのが視界の片隅に入る

まったく周囲を見渡す様子も見せずに階段を上がっていく海斗はすぐに会場の外に出てしまう
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