あの頃…
「看護師全員振ったとか」

全員はいくらなんでも盛りすぎだ

「ひとまずかわいげのない研修医だったって。研修医の癖に落ち着いてるし、知識は持ってるし」

本当、どうしようもないやつで

でもだからこそその先を心配したのだと言っていた

「医学書は嫌でも目に入ったからな」

家柄なのだろう

幼いころから触れていた医学のことが、他の人より知識として多く蓄積されているのは当たり前だった

「でもまさかまだ医者だったなんて驚きだって」

今すぐにでも辞めたい、そう無言で告げていた背をよく覚えていたのだという

「あ、次の交差点右です」

言えば、すらりと隣の車線に入っていく

困るなあ

手元の地図を見下ろしながらそう思う

こんなにスムーズに運転されたら困る

もっと落ちてしまうではないか

少しくらいあら探しをさせてくれてもいいのに

気づかれないようにそっと息をついて外を眺めれば、程よく色づいた並木道

ああ、もうそんな季節か

もうすぐだな

流れる景色を見ながらもっと腕を上げよう

そう誓った
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