あの頃…
「黒崎先生、さっきヤブに当たったって言ってましたよね」

「あの年代には珍しいことじゃない。金銭的・世間的問題からヤブに当たることは」

「でも、お金なら相手の人だって出してくれるんじゃないですか」

「出さないのだって居るだろう。俺が前に診た患者は男に勧められたのがやぶ医者で子宮全摘がやむ追えなかった」

もしかしたら彼女もそのパターン

そこまで言い終えてふと視線を上げれば、医局のドアが静かに閉まるところだった

人の話は最後まで聞け、と思ってふとため息をついた


「佐々木さん」

天井を見つめていた視線がゆっくりとしるふに移る

ベットの横にある椅子に座って少し沈黙が流れた

「おせっかいなのはわかってる。でも、話したら楽になることもあるかもしれないし、独りで悩むのはよくないと思う。いつでもいいから、話してもいいと思ったら話して」

今自分が出来ることは少ないかもしれないけれど

このまま彼女が退院していくのは、いやだから
< 14 / 223 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop