あの頃…

雪の中の彼女

海斗が元指導医権限を行使して来た電話から数週間

色とりどりのイルミネーションと視界に入ってくるクリスマス商戦の数々

白い息を吐きながら、そっとマフラーをまき直し黒崎病院最寄り駅の改札を通る

地下道を抜ければそびえ立つ高級マンション

噂ではここが海斗の自宅らしいが、本当だろうか

看護師が噂していた「黒崎先生の愛車はBMW」も本人に確認したらただの噂だったことがあるし

人の憶測がいつの間にか噂として語り継がれているだけではないかと思う

「寒い」

この冬一番の冷え込みを記録するらしい今日

もしかしたら雪が降るかもしれない、と天気予報で言っていたっけ

「やっぱりケーキだけじゃなくてディナーでもおごってもらおうかな」

こんな寒い日に

わざわざ電車を乗り継いで(そんなに遠くない)足を運んだのだから

それ位してくれたって罰は当たらない

なんて早足で歩きながら思っているとあっという間に黒崎病院の外壁が見えてくる 
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