あの頃…

佐々木が口を開いたのはそれから二日後のこと

「先生、これ」

朝、佐々木が手渡してきたのは一枚のメモ用紙

四つ折りにされたそれを広げれば明らかに男のものとわかる文字が並んでいる

「これ…?」

視線を上げると寂しそうな瞳が小さく自嘲するように細まった

「あの人からそこを紹介されたの」

浮気が発覚し、別れを告げた後の妊娠

ここなら安く済むから、そう言われて渡されたメモ用紙

少しでも希望を抱いた自分がばかだったのだと

並ぶ文字を見つめながら思った

「3年付き合ったのに一銭も出すそぶり見せなくて、それだけの存在だったんだなって」

うすうすわかっていたような気がしたけれど

目を背けられない現実が付きつけられて、何かが崩れていく音を聞いた

「しかもね、それ貰った時、居たんだ」

隣に、違う女の人が

まだ別れて1か月もたっていなかったというのに

「殴ってきてあげる。そんな男。だから佐々木さんは忘れて。吹っ切って」

それで最後

もう後ろなんて振り返らない

「もういいよ、先生」

そう言って小さく笑う彼女はとても寂しそうで

無意識のうちに手を握りしめていた