あの頃…
「じゃあ、どこに行くんですか」

ケーキ奢ってください、と数週間前に言っておいたのだから探す位の姿勢を見せてくれてもいいんじゃないか、と思ったことは内緒だ

「それに、私ケーキ食べたいです」

美味しいと評判だけれどまだ食べたことのない店をちゃんとピックアップしておいたのだ

「わかってる。頭金の頭金でいいよ」

そんなものあるのか、と疑問に思っているうちにやってきたのは幾度となく海斗と遭遇した屋上への階段

「…屋上、ですか?」

「そう」

前を行く海斗の背を追いながら階段を上がれば、ひんやりとした空気の中に夜景が広がっている

そういえば夜に一人よく星空を見上げていたっけ

そんなことをしていると海斗がやってきて、またいたのか、なんて言われた

「なんで屋上なんですか、黒崎先生」

夜の空を見上げる海斗の横顔を拝む

そっとつく息は、白い

「あの、黒崎先生」

聞いてますか

「もう少し待ってればわかる」

言いながら柵にもたれる海斗の隣に並ぶ

少しもたれれば触れられるほどの距離を残して
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