あの頃…
柵に背を預ける海斗の横顔をそっと盗み見る

精悍な横顔に少しだけ切なさを覚えた

視線を外して眺める夜景

遠くに国道を行く車のエンジン音が聞こえる

その先にはあの浜辺がある

きっと今日もゆったりと波が寄せて、引いているんだろう

「黒崎先生」

流れる沈黙を破ったのは、しるふだ

「なんだ」

静かに響く海斗の声

短く、少しぶっきらぼうな言葉の中に、けれど優しさがあることを知っている

呼べばいつでも振り向いてくれて

見下ろしてくる瞳は、いつも冷静で、そこに優しさなんてないけれど

でもちゃんと耳を傾けてくれることを知っている

「…何でもないです」

柵に腕を乗せて、その上に頬を乗せながら海斗に見えないようにそっと微笑む

呼べば応えてくれる

たったそれだけのことがこんなにもうれしい

「なんだそれ」

言葉とは裏腹にその口調は穏やかで、少し笑みを含んでいるような気がした

「…頭金の頭金っていいなって思っただけです」

こうして海斗と同じ空間にいられるのなら
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