あの頃…
「なんで…?」

「それはこっちのセリフ。こんなところでなにしてるんだ」

尋ねてくる瞳は、相変わらずの漆黒

「そうじゃなくて!!アメリカに行ったんじゃないんですか!?」

ふわりと風が熱くなった頬を撫でていく

「行ったけど」

それがどうかしたか

「だって!!机埃かぶってたし、片付いてたし!!前に担当した患者さんの再手術だって!!だから…!!」

だから…

「そりゃ3週間も放っておけば埃くらいかぶるだろうな」

なんて至極冷静に返さないで欲しい

こっちは朝からあまりの衝撃に売店でドカ食いをしたというのに

「だって!!誰も帰ってくるなんて言ってなかった!」

睨み付ければ、じんわりとゆがむ姿

「神宮寺医局長はじめ全員が帰ってくることは知ってたはずだけど」

また後先考えず走り出したんじゃないのか

「なっ!!」

失礼な!!

確かにその後誰かに聞いたりはしなかったけれど

それどころじゃなかったこの乙女心をわかってほしい
< 159 / 223 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop