あの頃…
こんなにわがままで強情で、意地っ張りで、泣き虫で

本当にどうしようもないやつに

でもだから落ちたんだろう

「立花」

「はい」

頬をさすりながら見上げる先には、あきらめたようなそれでいて優しい漆黒の瞳

「言っておくが、俺は自分の女だろうが仕事場では容赦しない」

「…わかってます」

黒崎先生がサドなことはこの1年でよく学びました

「あと、連絡無精で乙女心をまったく理解してないことも」

それでもこんなに落ちているのだから仕方がない

「…本当、いい性格をしている」

海斗の瞳が細まって、とっさに両頬を手でガードする

でも、その手が伸びてくることはなくて

気が付いたら海斗の腕の中だ

香るのは、かすかな海斗の香り

心地の良い、その場所

「…今日は、泣きませんよ」

こんなにもこの空間が安心できるのはなぜだろう

そっと額をつけた彼の肩は、とても広い

「もう少しかわいげがあってもいいと思う」

振動となって伝わる声はいつもより心地いい
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