あの頃…
「あ、莉彩、いいところに」

これ、今日のカルテ

差し出されたカルテを受け取りながら、

そりゃあ風邪で弱ってる時にこの花に優しげに微笑まれたら

誰だってときめくさ、とふと思う

この無邪気で無垢で、鉄壁、黒崎海斗ですら落とす花にそこいらの男が心惹かれない訳がない

「立花」

「はい」

見上げてくるブラウンの瞳に、その無邪気さに

絶対、絶対に期待なんてしていない

「期待はしてない。確認のために聞いておく」

「はい。なんでしょうか」

見下ろしてくる漆黒の瞳に呆れと諦めが混ざっている、そう感じたのは長いこと同じ時間を歩んだからだろうか

「さっきの患者」

「あ、心配ないですよ。あの親子は」

「の前のサラリーマン」

「ああ。あの方は、特に異常はみられませんでしたよ。先週も来てたし少し気になったけど軽い風邪です。最近気温も上がってきましたし、疲れも出たんでしょうね」

ああ、本当にどうしたものか

そう思ったのは一瞬で、どうしようもないだろう、とどこかで自分の声が聞こえた気がした

隣で飯田の瞳に哀愁と同情が垣間見えた

「飯田、後頼む」

ため息をつきながらICUに向かう背
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